法人成りのメリット・デメリット
2021/11/02
法人成りのメリット・デメリット
令和5年10月からの消費税のインボイス制度の導入もあって、昨年から最近にかけて、法人成りについてのご相談が多くありました。
そこで今回は法人成りのメリット・デメリットについて考えてみたいと思います。
<メリット>
(1)給与所得控除が利用できる
(2)消費税が最大2年間免税になる
(3)社会的信用がアップする
(4)経営者の生命保険料を全額または一部、経費にできる
(5)銀行融資が受けやすくなる
(6)赤字を10年間繰り越せる
(7)経営者及びその家族の退職金を経費にすることができる
(8)事業承継がしやすい
(1)給与所得控除が利用できる
法人が給与(役員報酬)を支払った場合、原則、全額法人の経費になります。
一方、給与を受け取った社長は給与所得として課税されます。
ただし、給与所得は給与の収入金額―給与所得控除額で計算され、収入金額=課税
対象となる訳ではありません。
この給与所得控除は概算経費であり、給与の金額にもよりますが20%~45%程度の金額になります。
例えば社長の役員報酬を800万円とした場合、給与所得控除は190万円となり、
率にすると23.75%となります。
つまり、法人は支払った給与の全額が経費にでき、かつ、給与をもらった社長は
さらにもらった給与の23.75%が経費にできるため、税制上のメリットが受けられます。
(2)消費税が最大2年間免税になる
消費税は原則、基準期間(ここでは単純に「2年前」)の課税売上高が1,000万円以下の事業者については消費税の申告・納付義務がありません。
法人の設立1期目、2期目は基準期間がありませんので原則免税事業者となります。
個人事業者としての課税売上高が常時1,000万円を超えているケースでは法人成りによって2年間の消費税免税の恩恵を受けることができます。
ただし、消費税の免税点制度は年々非常に複雑になってきており、特に令和5年からは適格請求書等保存方式(インボイス方式)が導入されるため、場合によっては、2年間フルで免税の恩恵を受けられなくなります。
また、特定期間の課税売上高の判定、特定新規設立法人に該当する場合などによって免税期間に制限を受けてしまう場合がありますので注意が必要です。
(3)社会的信用がアップする
取引先が大企業や、中小企業でもある一定規模の企業と取引を行う場合などは、法人でないと取引できないと言われることがあります。
公共事業の入札、学校法人との取引などの場合、法人であることが取引条件の一つとされる場合があります。
(4)生命保険料を全額または一部を法人の経費にできる
個人事業者の場合、生命保険の掛金(保険料)は家事費扱いですので、事業所得の必要経費に算入することはできません。
所得控除(生命保険料控除)の適用を受けることはできますが、上限があり、保険料が年間8万円以上は一律4万円しか控除されません。
法人契約の場合は、掛捨の定期保険であれば全額損金算入となり、解約返戻金のあるタイプの保険でも全額損金、60%損金、40%損金などいくつかパターンがありますが法人の経費に算入が可能です。
(5)銀行融資が受けやすくなる
(3)の同様に、法人のほうが個人事業者よりも信用力があり、銀行融資が受けやすい傾向があります。
個人事業者の場合、事業資金と家事費の線引きが曖昧なことが多く、貸出金の資金使途が見えにくいためです。
法人の場合は、決算書を見ればある程度の資金使途は追うことができ、個人に比べてガラス張りの経営となりますので金融機関も融資しやすいということになります。
また、以前までは法人で銀行融資を受けるときは経営者保証(社長の個人保証)を要求されるケースが多かったですが、最近では少しずつ経営者保証を外すケースも出てきてます。
経営者保証がついていない融資の場合、万が一事業に失敗しても個人の財産は守ることができますので安心してリスクを取った経営を行うことができます。
一方で、個人事業の場合は万が一のときにはほぼ全ての財産が取られてしまうことがあります。
(6)赤字を10年間繰り越せる
個人の場合は純損失の繰越控除は翌年以降3年間ですが、法人の場合は最大10年間繰り越すことができます。
(7)経営者及び家族の退職金を経費にすることができる
個人事業者の場合は、事業を廃止したとき、自分や事業専従者に対して退職金を支払うことができませんが、法人の場合は合理的な方法で算出した退職金は全額経費に算入できます。
会社を事業承継によって後進に道を譲る場合など、役員退任後の生活資金として退職金を受給することができます。
退職所得の場合、退職個得控除額という大きな控除額があり、少ない個人の税負担で法人からお金を受取ることができます。
また、退職金支給の原資については(4)の生命保険を活用して積み立てていきます。
(8)事業承継がしやすい
個人事業を承継する場合、契約や不動産の所有権が全て個人名義であるため、承継が難しい場合があります。
親族内承継であればまだしも最近では後継者不足によって、第三者承継も増えている中で様々な障壁があります。
法人の場合は基本的には社長が持っているその会社の株式を後継者に譲渡するだけで事業承継を行うことができます。
<デメリット>
(1)会社設立費用がかかる
(2)社会保険(健康保険・厚生年金)の強制加入
(3)赤字でも均等割(京都市:資本金等の額1,000万円以下の場合 7万円)の納税が必要
(4)電話料金、自動車保険等を法人契約にした場合、割高になることがある
(5)設定した役員報酬以外は会社から個人的支出のためのお金を出金できない
(6)税理士事務所等の支払コストが増える
(7)税務調査に入りやすくなる??
(1)会社設立費用がかかる
株式会社の場合、登録免許税が約20万円、司法書士の報酬が約10万円の合計30万円程度の費用がかかります。
(2)社会保険(健康保険・厚生年金保険)の強制加入
法人の場合、正社員(役員も含む)が1人でもいると社会保険に加入しなくてはなりません。
たとえ、社長お一人の会社であっても加入が必要です。
社会保険料は法人と個人(給与所得者)との折半で、給与の約15%ずつをそれぞれが負担します。
サラリーマンの場合、会社が半分負担してくれますので社会保険の加入のメリットはそれなりにありますが、法人成りの場合にはその法人も社長個人もひとまとめで考えてしまうと30%を負担することとなりますので負担は大きいです。
(3)赤字でも均均等割の納税が必要
個人事業者が赤字の場合には納税額はゼロですが、法人の場合は均等割が課税されます。
京都市の法人で資本金等の額が1,000万円以下の場合の均等割は7万円です。
(4)電話料金、自動車保険等を法人契約にした場合、割高になることがある
法人契約に切り替えると支払が増える可能性があります。
仮に個人名義のままであったとしても、その経費が法人の事業に直接に関係するものであれば法人の経費として計上できますが、法人と個人とをお金の流れをきちんと区分するという観点から考えると法人契約にするほうが良いかもしれません。
(5) 設定した役員報酬以外は会社から個人的支出のためのお金を出金できない
役員報酬は税務上、定期同額給与に該当する必要がありますので、基本的に定時株主総会で決定されたものは1年間同額で支給をする必要があります。
事業年度の中途で生活費が足らないからといって法人からお金を拝借することは厳禁です。
個人の月々の生活費として必要な金額を基に役員報酬を決めると良いでしょう。
(6) 税理士事務所等の支払コストが増える
法人の決算及び確定申告は個人と違い、添付書類も多く複雑なため、ご自身で作成することは困難ですので税理士に依頼する必要があるとお考えください。
(7)税務調査が入りやすくなる??
単純に法人数の方が個人事業者の数よりも少ないため、個人事業者と比べると税務調査が入りやすくかもしれません。
ただ、事業を行っている限り、税務調査は付きものです。
日々きちんと帳簿付けを行い、適正な経理処理を行っていれば恐れる必要はありません。
また、当事務所では添付書面制度の利用を推進しておりますので、仮に税務調査が入ったとしてもワンクッション挟みますのでご安心いただけると思います。