事業所得と雑所得の違いと判断基準
2021/09/24
事業所得と雑所得の違い
~こんな場合は事業所得??、雑所得?? どっち??~
最近では副業を認める会社も増えてきているようですね。
今回は事業所得と雑所得の違いと判断基準について解説していきます。
副業の収入は給与所得に該当する場合を除き、事業所得か雑所得となります。
事業所得の金額と雑所得の金額は【総収入金額 - 必要経費】で計算されますが、大きく異なる部分があります。
事業所得と雑所得の主な違いは以下のとおりです。
No |
項目 |
事業所得 |
雑所得 |
1 |
青色申告特別控除の適用 |
あり |
なし |
2 |
青色事業専従者給与必要経費算入 |
あり |
なし |
3 |
損益通算 |
あり |
なし |
4 |
損失の繰越控除、繰戻還付 |
あり |
なし |
5 |
少額減価償却資産の必要経費算入の特例 |
あり |
なし |
上記5つは所得に与える影響が特に大きい項目ばかりであり、その所得が事業所得となるのか、それとも雑所得となるのかによって税額が大きく異なりますので
注意が必要です。
では、事業所得と雑所得はどのように区分されるのでしょうか?
まず、所得税法27条では事業所得とは、「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得」をいいます。
また、所得税法35条では雑所得とは、「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得」をいいます。
これだけではよくわかりませんね。
そのため、過去には事業所得の定義について最高裁で争われたケースもあります。
古い話ですが、昭和56年の最高裁判決では、事業所得については、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」と解されています。
このことを踏まえて、平成15年の裁決事例をご紹介します。
事案の概要は次のとおり。(一部抜粋)
弁護士が著書出版に係る著作権使用料の収入が事業所得に係る総収入金額に含まれるか否か及び当該著書に係る広告宣伝費用が事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されるか争われた事案です。
審査請求人の弁護士は、事業というに至らない程度の印税収入は「雑所得」であると理解していたが、本件著書はその弁護士が執筆を業とするものではないが、債務処理に強い弁護士としての知名度を高めるために著述した専門的なものであり、弁護士業務に関連したものであことから、この執筆に係る印税収入は事業所得の付随収入であると主張しました。
一方、税務署側は「事業所得とは、対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得」としているが、ここでいう事業とは、社会通念上事業と認められるもの、すなわち、個人の危険と計算において独立的に継続して営まれ、かつ、事業として社会性客観性を有するものと解されており、この一冊だけの著書では、継続して営まれ、かつ、社会的客観性を有するものには当たらないとして事業には該当しないと主張。
また、この執筆行為は、飽くまで弁護士業務を離れて行われた行為、すなわち、その弁護士が弁護士業務を通じて得た知識と経験を書き著した著書の販売によって得た収入とし、事業所得の付随収入には該当しないと主張をしました。
この審査請求の結論は、納税者である弁護士の主張が通っています。
この場合の印税収入は、著書の内容が弁護士としての知識や経験等に基づくものであって、本来の弁護士業務と直接結びつきが認められるものは所得税法上、事業所得以外の各種所得とされるものとして明示されているものを除き、事業所得に含まれると解するのが相当とされました。
税務署側はこの弁護士は執筆を業としていないことを主な理由に雑所得と主張していましたが上記の「業務と直接結びつきがあると認められる」ことから税務署の主張には理由がないとされています。
今回の裁決事例では、事業との直接の結びつきなどを理由に印税収入が事業所得とされたケースをご紹介いたいました。
では、同じようなケースですが芸能人が本を出版した場合の印税収入についてはいかがでしょうか??
先日、TKCの巡回監査士補試験の講師をした際、その講義中にこのような質問を受けました。
この場合においても、事業所得に該当するか、雑所得に該当するかは個々の状況によってケースバーケースだと思います。
芸能人の多くは芸能活動が本業であり、執筆を業としておらず、その執筆活動が職務と直接の結びつきが薄い場合には雑所得に該当する考えられます。
芥川賞を受賞された又吉直樹さんぐらいになると執筆を業としていると言えなくも無さそうですが、あくまで芸能活動が主ですのでやはり印税収入は雑所得になるのではないかと思われます。芸能活動と執筆活動の時間的、収入的なウェイトによりますので今後、作家としてウェイトが大きくなってくると事業所得になるかもしれません。